『君の名前で僕を呼んで』(原題 Call Me By Your Name)
17才のエリオが、北イタリアの別荘で両親と一夏を過ごすところから映画のプロローグ。エリオは、アメリカの名門大学で教鞭をとるギリシャ・ローマ考古学教授の父パールマンと、何ヶ国語も流暢に話す母親の一人息子。教授にアシスタントとして招かれてやってきたのが24才の大学院生オリヴァー。彼は教授の助手で夏の間エリオたちと暮らすことになる。
早熟な聡明で芸術的センス溢れるエリオを演ずるのがティモシーシャメラ。映画関係者の多い家族の中で育っただけあって自然にハイクオリティの演技ができる逸材である。
映画の一コマが絵画になっている |
この映画の魅力はセリフの芸術性である。どのセリフにも教養豊かな品の良さがある。上等な小説を読んでいるような。脚本のジェームズ・アイヴォリーの魅力であろう。この作品で第90回アカデミー賞脚色賞を受賞している。
二人の肉体的絡みは、男女のラブシーンと違って斧で現実を断ち切るショックを与える。このショックがこの映画の非日常を生み出し非凡な作品に仕上げている。
ジェームズ・アイヴォリーはインド出身のイスマイル・マーチャントとプロダクションを設立し、マーチャントのプロデュース、アイヴォリーの監督のコンビで公私にわたるパートナー(同性愛)として24本の長編映画を製作した。この映画のエリオとオリヴァーはアイヴォリーのリアリティだと思う。
オリヴァーを演ずるアーミーハーマは大変魅力的で、裕福な家庭の遺伝子に溢れて最高の演技だった。彼の登場で画面がゴージャスになる。彼にはもっと大きな主役があるはず。スパイ映画の「コードネームUNCLE」を観たけれど、私は文学的役の方が彼の良さを引き出すと思う。
父パールマン教授のマイケル・スタールバーグは舞台出身だけあって重厚な演技で威厳に満ちている。実際に彼はジュリアード学校で美術学士を修めている。
魅力的な アミラ カサール |
映画のエピローグは、オリヴァーから「婚約した」と電話連絡を受けるエリオの悲しみの場面。女性のようにエレガントなシャツを着たエリオ。私にはこの二人はこれから始まるのだとしか思えない。
この映画には美しい人、教養人、センスある人、思慮深い人しか登場しない。だから観客は桃源郷を感じ陶酔する。しかし、現実は必ず悪人の存在を認めている。